ここは台所道具のワンダーランド KITCHEN TOOL WONDERLAND だいどこ道具ツチキリ ほぼ日支店

YAECAとほぼ日が運営するLDKWAREから、
まもなくひとつのあたらしいお店が誕生します。
「今月のLDKWARE2020」で大人気だった、
「だいどこ道具ツチキリ」店主である
土切敬子さんがセレクトするキッチン用品の数々。
そんなによろこばれるなら、というわけで、
いっしょにほぼ日支店を
立ち上げさせていただくことになりました。
お店で取り扱っている中から、
なんと約150アイテム(!)のラインナップが並びます。
さらに毎月、ツチキリらしい
「セット」の提案もしていきます。
新商品の登場もありますよ。
お店に行ったときのワクワクを、疑似体験してくださいね。

支店のオープンは10月19日(火)、
井の頭公園近くでちいさなお店をいとなんでいる
店主・土切さんのお話しをお読みください。

だいどこ道具ツチキリ店主土切 敬子(つちきり けいこ)

デザイナーから転身して、
2017年に自宅の一部を改装した
『だいどこ道具 ツチキリ』をオープン。
自分で実際に使ってよかったもの、
見た目が気に入ったもののみを取り扱う。
お店の横にある自宅のキッチンで
おためしをしてくれることも。
来店して店主とおしゃべりするのも、
このお店のたのしみ方です。

11月には初の著書
『おしゃべりな台所道具
~話し出すととまらなくなる、道具のおいしい話~』
を出版予定。

181-0001 東京都三鷹市井の頭5丁目2-28
OPEN 11:00 - 18:00(火・水 定休)
インスタグラム >フェイスブック >

自宅でお店をはじめよう。

――
お店を始めたのはどんなきっかけだったんですか?
もとはデザイナーのお仕事をされてたんですよね。
土切
最初はテキスタイルのデザインをしてたんです。
けっこう大きい、デザイナーが30人ぐらいいるような
会社で仕事をしてました。
で、子育てをするタイミングで辞めたんですけど、
しばらくしてから、
近所の紅茶の会社に入ったんです。

小さい会社で、小さいからこそ、
そこでものを作って、売る仕組みみたいなものが、
全部見えたんですね。
見えたことが、すごくよかったなと思ってます。
それで50歳を過ぎて、
ずっとこうやって会社員でやっていくよりも、
1人でやるようなことを考えなきゃいけないなー
と思って‥‥。
何をしようかと考えた時に、
昔から、試しては買い試しては買いを繰り返していた、
「道具」を扱う店をやろうかなと思ったんですよね。
ずっと、ものを企画して作るところにいたけれど、
作る側にいても思うようには作れないことも多い。
だったら、あるものをセレクトして、販売する
っていうのをやってみようかなと思ったんです。
そういうことを続けてたら、
いつかは自分でも
自分の欲しいものが作れるときが来るんじゃないかな
と思ったのが、始めたきっかけですね。
――
道具がお好きだったんですか。
台所道具にしぼったのがこのお店の魅力ですよね。
土切
道具は好きですよ。
なんで台所道具か、というと、
キッチンにはすごくたくさんのアイテムがあって、
面白いものがいっぱいあります。
使って初めてよさがわかる道具ばかりなんですよね。
人間の手を介して価値がわかる、
そういうところが面白くて、
それでキッチンに特化しました。
――
場所はご自宅というのは、
決めてたんですか?
土切
どこかにお店を借りてやる方法もあるんだけど、
自宅でやるのがいちばんリスクが少ないかな、と。
自宅はこんな、吉祥寺の駅から離れてて
来づらいところなんだけれど、
自分自身も「この店、行ってみたいな」と思ったら
ちょっと不便でもがんばって行くわけですね。
そういう人もけっこういるんじゃないかなと思って、
自宅を改築してお店にしよう、って決めました。
――
そのとき、ご家族の反応はどうだったんですか?
土切
主人はおどろいていましたね。
やったこともないのに、うまくいくわけないって。
主人もデザイナーの仕事をしてるんですけど、
自宅を作業場にしています。
それまでは、私が仕事に行ってるときは自由だったのに、
私もずっといる、しかも人も来るってなったら、
それはイヤですよね、それはわかります。
――
ご主人の気持ちも、わかりますね。
生活ががらりと変わっちゃう。
土切
娘もそのとき高校生で、「えーっ」って。
2人して反対されましたよ。
――
2対1で負けてる。
土切
そう、負けてる(笑)。
まあでもダンナはそう言いつつ、
ここでやるしかないとは思ったみたいで。
納得してくれるまで、ちゃんとプレゼンしてね。
――
家庭内プレゼンもされて。
土切
資料作って、見せて、自分でお金出してやるから!
って言って。
――
わぁ、すごい。
そうやって始まっていま、4年ですか?
土切
4年前ですね。今度5周年です。

今使いやすいものを、なるべく長く。

――
もともと道具がお好きで、
いろいろ試されてたとのことでしたが、
それは台所道具にかぎらずですか?
土切
そうですね、道具は全般に好きですね。
小さいものが好きです。
――
お掃除の道具なんかも?
土切
お掃除のものも好きですねー。
学生の頃は友だちに
「何でそんなに買い替えるの?」
ってよく言われてましたね。
「もっと考えて買いなよ」とか
「何でそんなにちょくちょく買うの」って(笑)。
自分ではちょくちょくだと思ってなかったし、
使い勝手がいいほうがいいからって、
そんな感じだったんですけど。
若い頃は経験値が少ないから、
わからないんですね。
――
使い勝手といえば、
以前、とあるブランドのフライパンを使ってます
って話をしたら、
「あー、あれちょっと使いにくいでしょう」
っておっしゃったんですよ。
その土切さんの反応で、
そうか、あんな小さなフライパンひとつでも
いいとかダメがやっぱりあるんだなって気付いて。
よく考えれば当たり前なんだけど、
土切さんはそれを経験して、わかってる。
だからこの店に、説得力があって
すごくいいんだなと思って。
土切
そんなことありましたっけね。
選りすぐりの品々が並びます
――
自分でも気に入って使ってるわけじゃないけど、
他を知らないから、なんとも思ってないというか。
ちょっと古くなってきたし、
そのうち買い替えたいけれど、
タイミングもなかなかなくて。
土切
頂き物だったり、高かったりね。
でもやっぱりね、はじめはよくても、
ダメになるのはしょうがないんですよ。
もの自体が古くなって劣化するし、
家族構成が変わるということもありますからね。
家族が少なくなったら、小さいもののほうが
使いやすかったりするでしょう。

だから正直、「これ一生ものですよ」とは
なかなか言えないんですよね。
今いちばん使い勝手のよいものを探して、
ていねいに、なるべく長く使えばいいんじゃないかな
と私は思うんですけどね。
――
できるだけいいものをていねいに、
長く使いたい。
っていう人はここに来て、
いろいろ試した先輩の土切さんに聞くのがいいと思います。
土切
そう、買うときはやっぱり気合い入れて、
いろいろ探して考えて買ったほうがいいでしょうね。
安くて「とりあえずこれでいいか」って買ったものが、
ずーっと壊れないで使えちゃったりもするけども。
――
わかります。
使いやすいわけでも、好きなわけでもないのに、
ずっと使っちゃってる。
土切
いつ買い替えるんだ、ってことがありますよね。
――
この間、思い切ってフライパンを買い替えて。
土切さんのおすすめの鉄の小さいもの。
次の日の朝ごはんに使って、
わたしは今まで何をやってたんだ! と
もうびっくりしちゃって。感動しました。
感謝です。
土切
え、ほんとですか。よかった。
――
替えてよかったです。
感動したなぁ。
あのフライパンは、もう長く扱ってらっしゃるんですか?
土切
そうですね。
うちのものって「定番」で流行り廃りもないから、
一度決まったら、
そんなに変化はないですよね。
――
「定番」ですもんね。
1回来て、欲しいものを全部は買えないので、
また来ることになる。
わたしたちスタッフも、
来るたびに買い物させてもらってますし(笑)。
このお店に魅力があるから、
行ってみたいという人はまわりでもすごく多いです。
土切
でもね、5回ぐらい来たらもう、
買うものないんですよ(笑)。
だからテーマを決めて、
イベントをときどきやってましたね。
今は感染症のこともあってできてないですけども、
これから色々やっていきたいですね。

もっといいものを、ずっと探してる。

――
定番がほぼ決まったものでも、
さらに「もっといいのないかな」って
探し続けてるものもあるんですか。
土切
それは、もういっぱいありますね。
いつでも探してます。
――
あるんだ、やっぱり。
終わらない旅ですか。
土切
この前もテレビで、ハサミとかピーラーとか、
キッチン道具を紹介してたんですけど、
やっぱり私は、デザインが気に入ったものじゃないと
ダメだなぁと思って観てました。
――
ここがもうちょっとこうだったらいいのに、
とかですか?
土切
機能的にはいいかもしれないけど、
このデザインだとずっとそばに
置いておきたくないな。って。
簡単に使えて、チープだけどやっぱりいいものだから、
仕入れたいものもあるんですよ。
でも、色がちょっと好みじゃないな、とかね。
むずかしいです。
機能がいいものは、いくらでもある。
何よりも便利さが勝ってるみたいなものも、
それはそれでいいと思うんだけど、
もうちょっと、デザインとか色とか、
こっちに近寄ってほしい、っていうのはありますよね。
――
このお店には、
土切さんの目から見てデザイン的に
クリアしてるものしかないから、
棚がすごくきれいなんですよね。
並んでるのを見るといろいろそろえたくなっちゃう。
土切
うちの店では、包装を全部はずしてるからかな。
私は、パッケージに包まれたまま置いてあると、もう、
買いたくなくなっちゃう感じがあるんですよね。
ぜんぶがバラバラで統一感もないし。
だから1回全部はずさないとダメだなと思って、
そうやってます。
――
メーカーの説明書が先入観になることもあるし。
土切
1回フラットにして見れるっていうのもね、
あるかもしれないですよね。
――
見せ方で、ぜんぜんちがいます。
うちの社員がアルマイトのバットを見て、
「これ実家でお母さんが30年ぐらい使ってるけど、
ここで紹介されてるとすごく素敵に見える」って。
欲しいと思ったことなんてなかったのに欲しくなってきた、
って言うんですよね。
そういうところは、ツチキリマジックです。
取り扱い商品のひとつである「下ごしらえに便利なバット」。
土切
そうですかー。
バットも色々あるんですよ。
「浅いステンレスのものはないですか」
ってよく聞かれて、私もそう思ってたから仕入れたんです。
それがね、蓋がピタッとはまって重なって、
収納がすごくきれいに見えるんだけど、
縁が切りっぱなしで触ると痛い。
カッコいいし、機能的にもすごくいいけど、触ったときにイヤだなっていう、
そういうことで選べないものもあるんですよ。
――
機能とデザインに、感触。
手で使うものだから、そこも大切ですよね。
土切
ちょっと気になるところがあると、
使いたくなくなっちゃいますよね。

台所がそこにあるから、いい。

――
お店のスペースって、もともとは何だったんですか?
土切
ここは、台所とつながったリビングです。
床暖房も入ってたので、
もったいないからはじめは床もそのままで
靴を脱いで上がるようにしたらどうかな、って
計画してました。
ほかにも塀を壊したり、入口の改装もあったし、
なので店になるリビングには
手を入れなくてもいいかな、と。
――
なるほど、せっかく入れた床暖もそのままで。
土切
でもね、お客さんに靴脱いでもらうって‥‥。
それはちょっとダメじゃないかなと思って、
お金はかかったんですけど、
それがいちばん必要なことじゃないかなと思って
床を半分取って、掘って下げて土間にしました。
28年前にここに住み始めるときに天井を高くしてて、
それでまた床を30センチ低くしたから、
全体にものすごく高さが出たんですね。
それで、ちょっと気持ちいい感じで入ってこられる、
そんなお店になったかなと思ってるんですけど。
――
上げて、下げて、だったんですか。
でも、靴を脱ぐスタイルだとお店の雰囲気は、
ずいぶんちがいましたね。
4年やってみて、いかがですか?
土切
やっとこのお店で売れるもの、そうじゃないものの
予想がつくようになったかな。
――
「これ何だろう?」みたいなものでも、
土切さんが、
便利ですよ、こんな使い方なんですよ、
って言ってくれると欲しくなる。
POPでも土切さん目線の説明がされてますよね。
土切
最近、年配のお客さんも増えたんですけど、
ちょっと文字が小さいみたいで(笑)。
もう、聞いてもらうしかないですよね。
――
でもね、店主とお話するのも
ここのお店の、いいところです。相談に乗ってもらえる。
実際にそこのキッチンでちょっと
実演してくださることもあるんですよね?
土切
この前、面白かったんですよ。
ひさびさにお天気がよくてお客さんが多かったんですね。
その時、主人がここでパスタを茹でてて、
店にも置いてあるザルで湯切りしてたら、
ちょっと年配のお客さんが
「それそれそれ」
って、そのザルに注目してくださって。
「それ、いいの?」って。
そこでわたしがいろいろ説明したらね、
「じゃそれちょうだい」って、買ってくださった(笑)。
――
すごい、まるで実演販売です。
まさに、台所が横にあるからこその。
カーペットのあるこあがりに腰かけて、接客をすることも。
土切
住んでるだけの時は何も、
ここで店をやろうなんて思ってなかったんだけど、
うちの台所で使うもの、ここに置いていいと思うもの、
合うものセレクトしてるので、
結果的に自分の落ち着く空間になったんですよね。

もしこれがマンションとかだったら
もっとちがうセレクトになっちゃうんじゃないかな。
だからここで販売するのがいちばんいいのかな。
あと、道具の経年変化も
「5年使うとこうなりますよ」っていうのを
実際に見てもらうこともできるから、
それがいいかなと思ってます。
――
そうですね。
実店舗と、「ほぼ日支店」と、
ちがった役割になりそうです。
ぜひ機会があったら、お店にも足を運んでみてください。
土切さん、ありがとうございました。

(おわります)ヘッダ撮影:長野陽一
取材撮影:ほぼ日