ゲストキュレーター内田 真美（うちだ まみ）

料理研究家。
長崎県出身。
幼少のころから食に興味を持ち、料理家の道へ。
シンプルで美しく、おいしいレシピの著書多数。
また台湾やお茶文化にもくわしく、
台湾のガイドブックも執筆。

個性的なジャムとはちみつ、ぜんぶで11種類！

――

最後に紹介していただくのは、
内田さんのお気に入りジャム特集っていう感じでしょうか。

内田

そうですね。私、ジャムは好きで自分でも煮るんです。
仕事柄っていうのもありますけど（笑）。

――

お料理のお仕事をされていますので（笑）。

内田

これも仕事柄だと思うんですけれど、
いただくことも多いんですよね。ジャムを。
ですからそのなかで、おいしかったものを選んでみました。
たくさんあったらたのしいかなって。

――

じゃあ、かなりいろいろ食べてきたなかで、
「これは」というものを選んでくださったんですね。
それは楽しみです。
どれからいきましょうか？

①イギリスのはちみつと、マーマレードまろやかな味、こっくりとした食感

内田

じゃあ、イギリスのものから。
ジャムとはちみつですね。
このはちみつはだいぶ長く食べています。

――

これはどういうものなんですか？

内田
イギリスの、コッツウォルド地方の
白濁した結晶状のはちみつなんです。

――

白濁？

内田

結晶化してるんですね。
ねっとり、まろやかな味で、ほんとにいい風味なんですよ。
日本で一般的な、トロッと、サラッとしたのとはまたちがいます。

――

「結晶化したはちみつ」っていうジャンルがあるんですか？

内田

あるんですよ。ふつうのはちみつを、
冷やして作るみたいです。
私は長年このコッツウォルドに憧れていて、行ったんですけれど、
ロンドンより北西にあって、
はちみつ色の古い町並みで、緑の丘陵地帯にお花が咲いていて、
とっても素敵なところなんですよ。
そのコッツウォルドで採れたはちみつです。
瓶の蓋を開けただけで、もうバニラみたいな、
お菓子みたいないい香りで、なめらかで。
これ、お菓子に使うととってもおいしいんです。

――

食べてみます。
ああ、コクがあります。濃厚ですね。

内田

うん。いい風味。
これね、バタートーストもいいですし、
フレッシュチーズにかけて食べると、
とってもおいしいんです。お菓子みたいで。

――

チーズに。なるほど。
そしてジャムですね。これも同じメーカーですか？

内田

これはね、輸入元が一緒なんです。
ウェンディさんという女性が、
小規模で手作りなさっているんですって。
まず、イギリスのマーマレードっていうのは、
いろんなタイプがあるんですけど、
私はこのこっくりとした色のタイプが好きです。
ウェンディさんは、ペクチンを使わずに、
オレンジやりんごを加えているんですね。
このジャムも、すごく風味がいいんですよ。
賞をとったりして、とても有名なんですけれど、
なかなか手に入らないんです。
ロンドンの高級デパートでちょっとだけ扱ってるのかな。

――

工場で作ってるんじゃなくて、手作り。
それはたくさん作れないですね。

内田

そうなんですよ。
私じつは、普通のマーマレードは
そんなに食べなくていいんですけど。
これだけは好きで、よく食べます。

――

色が、マーマレードのイメージとは違いますね。

内田

そう、これが、ヴィンテージタイプですね。
キャラメルみたいな感じに煮詰めてあるんです。
ちょっと食べてみてください。

長野

あっ、おいしい～。
ヴィンテージタイプっていうのがあるんですね。

内田

ちょっとビターなんですよね。

――

あ、自然な甘さと言うのかな、
大人のマーマレードですね。これは。

内田

おいしいでしょ？
ちょっとハード系のチーズと合います。
これにチョコレートかかってたら、
お菓子になっちゃいそうなくらい。

②イタリアのジャム南イタリアの太陽いっぱいの畑から

――

次はイタリアですね。

内田

このふたつは、カーサ・モリミさんで扱っているものです。

――

あ、日本の方なんですか？

内田

そうです。モリミさんは長くイタリアに住んでらして、
いろんな場所を見て、生産者の方と親交を持って、
それで、おいしいと思うものだけを扱われるので。
間違いはないんです（笑）。

――

モリミさんが、セレクトしているんですね。
あ、これもまた独特の色ですね。

内田

いちじくとアーモンドですね。
すてきな組み合わせ。

――

意外な組み合わせですね。

内田

これもチーズと食べたいですね。
塩蔵肉、生ハムとかパテとかにも合いますよ。

長野

あっ、なにこれ！
うん！　おいしいですねー。

――

もうひとつが、アプリコットですね。

内田

私、ヨーロッパのあんずがすごく好きなんです。
とっても甘くて。
日本のは種類が違って、酸味が強いですよね。

――

実は、あんずのジャムは、「ほぼ日」でも作ってて。
糸井のレシピで、日本のあんずで作ってます。

内田

日本のあんずは、加熱すると風味がすごく出るんですよ。

――

そうなんですか。

内田

このアプリコットはわたしも今回、はじめて食べてみます。
‥‥わぁ、あんずもおいしい～！
なんか、素直ですね。
素直な生の果実の延長線上にいる味。

長野

ちゃんと、しっかり果実を感じますね。

内田

とても洒落ている味わいですよね。
さすがモリミさんです。モリミさんに間違いなし。

③日本の、果実とミルクのジャムフラベドとEqual、素材が生きたおいしさ

「フラベド」のジャム

――

今度は日本のジャムです。

内田

これは「フラベド」のジャムですね。
パティシエの鶴見昂さんのものです。

長野

カフェのプロデュースなんかもなさってますよね。

内田

そう、二子玉川の「カフェリゼッタ」とか。
そこでもこのジャムを販売しているんですけれど、
作っているのは熊本なんですよね。
熊本って、実は果物王国で、素材が豊富なんです。

――

なるほど。
いろんな果物のジャムが作れる。

内田

ジャムは、自分でも作るので、
買うものは、産地や生産者の方、
ジャムの作り方やキチンと状況が見えるものを
買いたいのです。
鶴見さんは組み合わせとか
風味の生かし方が、きちんとプロの味で。

――

素材のプロなんですね。

内田

その方のセンスを感じる味がします。

長野

センスがいいんですね。

内田

いくつか試食してみましょうか。
えーと、これは熊本の河内晩柑。
ああ、さわやか。
河内晩柑の、ビターな感じがいいですね。

長野

うん。普通のとは全然、違う。

――

ハニーローザというのは‥‥
すももなんですね。

内田

これもおいしい。
サラッとしてますね。
んー、キンカンが美味しい。
いちごも意外とサラッとしてます。

長野

ああ、いちご、想像と違う。
なんか素朴。

内田

たぶん糖度を控えて、水分を残してあるんですね。
ジャムというよりコンポートに近い。

――

これは日本の人が作った感じがしますね。

長野

うん。なんかホッとしますね。
素材がいいのがわかります。

内田

はい。生産者との関係を大事にされていて、
加工から私たちに届くまでの流通もきちんとしていて。
そういうところでもすごく信頼してますね。

Equalのミルクジャム

――

「Equal」っていうのは、知る人ぞ知る的な？

内田

はい。
代々木上原に「PATH」というレストランがあって、
パティシエが後藤裕一さんという方です。

――

後藤さんには、「生活のたのしみ展」で、
ワッフルを作っていただきました。

内田

後藤さんの新しいお店が「Equal」なんです。
後藤さん、市井に紛れ込んでらっしゃいますけど、
素晴らしい経歴の方なのですよ。
フランスのグランメゾンの三ツ星をずっととってる、
あのトロワグロで
トップのパティシエになられた、
アジア人で初めての方なんですよ。

長野

へぇぇ、すごいですね。

内田

だから後藤さんが作るものにも、間違いがない。
後藤さんのお菓子を日常で食べさせてもらうこと自体が、
もう、大変なことなんですよ。

――

そんなにすごい方だったとは、
わかっていませんで、失礼しました。
これは、ミルクバタージャムですね。

内田

那須の牧場の牛乳を使ってるそうです。
放し飼いでのびのび育ったジャージー牛の牛乳で、
乳脂肪分が高いものですね。

――

ミルクジャムというものがあるんですね。

内田

あるんですよ。
フランスではコンフィチュール・ド・レって言って。
私も、初めてフランスでコンフィチュール・ド・レ、
つまりミルクジャムを食べた時、
「こんなにおいしいものがあるんだ」って、
びっくりしましたね。

長野

うわぁ、おいしい、これ。
何につけて食べるんですか。

内田

これはね、パンとかお菓子ですね。
柔らかいブリオッシュとかにつけるのがいいです。
これも生産者さんの希少な食材を使って、
かつ、後藤さんのルセット（レシピ）で作られている。
さすがのおいしさ、ですね。
ちゃんとフランスの味がしました。
日本の人が作る感じじゃない。

――

いやぁ、ジャムの世界おもしろいですね。
いろんなジャムがあることがわかりました。

内田

生産者さんも有難いし、作ってくれる人も有難いし。
なかなか買えないようなものばかりなので、
ほぼ日で通販で買えるのは、うれしいですよ。

パンだけじゃもったいない。いろんな楽しみ方を。

――

今日は食べ方もおしえていただけるんですね。

内田

みなさん、パンにのせたり、ヨーグルトにかけて
食べてらっしゃると思うんですけど。
なにか、提案があったほうがいいのかしらと思って。
うちはね、塩蔵肉と合わせることが多いんですよ。

――

塩蔵肉と。

内田

生ハムとかテリーヌとか、塩蔵肉が好きなんです（笑）。
塩分が高いので、甘いものを組み合わせると、
すごくおいしくなるんですよ。

――

合いそうなのはどれでしょう。

内田

いちじくかなぁ、やっぱり。
これに、バター（笑）。
これはバターと言っても、私の中では、
発酵していないフレッシュチーズみたいなものなんです。

――

塩味と甘みがマッチするんですね。

内田

塩分とのバランスをみて、合わせる量を調節して。
それから、鴨のテリーヌに、キンカンとプラムです。

――

へぇ、こういうことになるんですね。組み合わせると。

内田

いい前菜になりますよね。
ジャムはお好きなものでいいですよ。
鴨の味、意外となんでも合いそうです。

――

次はチーズですか。
まず、コンテというチーズですね。

内田

コンテとマーマレードは絶対だと思います。
コンテは、セミハードで味が濃いんですね。
マーマレードも、これは味が濃い。

――

味が濃い同士ですね。

内田

でも苦みが繋がっているんですよ。
コンテってナッツ臭があって、
その後に、ビターが来るんですね。
マーマレードもビターですから、合うんです。

――

なるほど。
今度はまた違うチーズで。

内田

これはブリーチーズ。白カビ系のチーズですね。
合わせるのはアプリコットにしました。
これも絶対の組み合わせですね。

――

お酒が飲める人はたまらないですね。

内田

飲めない私は、水でもおいしい（笑）。
でもこういうのをちょびちょび食べながら、
おしゃべりしたりするのが好きですねー。
お酒を飲む方は、ぜひお酒と。
そうでない人は、延々とお茶とか飲みながら（笑）。

――

パンとの組み合わせにもひと工夫ですね。

内田

この、プンパニッケルが大好物なんです。
ライ麦のむっちりとしたパン。
ドイツパンですね。
噛みしめると、味が変化していくんですよ。
これにバターをたっぷり塗って。
そして、おいしい、おいしい、はちみつを。

――

バターのところをチーズでも？

内田

はい、これをフレッシュチーズでも、やります。
フレッシュチーズだとマスカルポーネとか。
味が濃いはちみつだったら、ちょっとでいいですね。
ほんのちょっと。
はちみつのかわりに、いちじくのジャムでも。

――

今度はミルクバタージャムですか。

内田

コンフィチュールドレをリコッタにのっけて食べます。
あー、ヨーロッパに行きたくなります。

――

食べ物で、世界中を旅できますね。
これもおいしいですねー。

内田

ミルクバタージャムはブリオッシュに合うんですよ。
でもきょうはブリオッシュがないので、
このふわふわのパンでやってみましょう。
これはいけるかもしれない。
マスカルポーネとリコッタを一緒にのっけて。

――

あ、チーズを２種類使って。

内田

はい。そしてミルクバタージャム。
これで、リッチなパンの感じになるはず。

長野

なるほど。

内田

「カロリーを重ねるね」って、よく言われます（笑）。
もちろんシンプルに、バタートーストにつけるのも
すごくおいしいんですけれど。

――

トーストにつけると、ジャムやはちみつの味がわかる。
いつも食べてるのとは全然違います。
素材と、作り方のよさがはっきりしますね。

内田

そうですよね。
ちゃんと植物から採ったことがわかりますよね。
なんていうんですか、野山が見えます。
いい意味の雑味も感じるし。
たぶんこれ、どう組み合わせておいしいんだと思います。
あとはそのときの気分とか、気候とかに合わせて。
完成度が高いものだから、それができるんですよね。
少し食べるだけで、満足できるものだと思います。

――

ありがとうございました！
これで内田さんのおすすめ紹介は終わりました。
「いいものリレー」のバトンを渡す、
お次の方のご紹介をお願いできますか？

内田

はい、次は、とってもすてきな環境で暮らしていらっしゃる方を
ご紹介したいと思います。
すてきなご家族で憧れです。
こんな時期じゃなかったら、いっしょに取材に伺いたいくらい。

――

わー、それはたのしみです。
内田さん、ありがとうございました！
それでは、バトンをお次の方へ渡しに行ってきます。

（つづきます）