いいものリレー

1人めのゲスト
長野 陽一さん(写真家)
プロローグくらしながら自分好みに変えていける、
余白のある家のくらし。

「いいものリレー」おひとりめのゲストは、
写真家の長野陽一さんです。
取材などでたくさんのすてきな場所に赴き、
たくさんのすてきな人に出会って、
たくさんのすてきなものをご覧になってる長野さんなら、
スタートをかざるのにうってつけだと思ったのです。
長野さんおすすめの「いいもの」を教えていただくため、
北鎌倉のお宅にうかがいました。

ゲストキュレーター長野 陽一(ながの よういち)
福岡県出身。
日本の離島、人々の暮らしをフィールドに
ポートレイトを撮る写真家。
国内外で個展やグループ展を開催するかたわら、
雑誌、広告、CM、映画などさまざまな分野で活躍中。

完成していない、余白のある家

――
長野さん、こんにちは。
おじゃまします。
長野
こんにちは、いらっしゃい。
どうぞお入りください。
――
わあ、なんか石膏像とかあって、
中学とか高校の美術室みたいですね。
長野
妻がお絵かき教室をやっているんです。
で、まあ、妻のアトリエでもある。
――
入っていきなりアトリエとは意外でした。
おもしろいですね。
あ、窓ぎわの洗い場のところ、
棚が不思議なくっつきかたをしています。
長野
この棚は、デンマークのニトリみたいなところで
買ってきました。
――
これ、側面だけで壁についてるんですか?
長野
側面を壁に打ちつけて、左がわを天井から吊っています。
――
なるほど、取り付けはご自身で?
長野
はい、ぼく、けっこうDIYが好きで。
壁も自分で珪藻土とか塗りました。
――
へえ!
長野
2階にいく階段の下は、プリンターやら絵を描く道具やら、
倉庫がわりに使っている感じです。
長野
その奥は書庫っていうか、本棚です。
画集とか写真集が雑然と置いてあります。
――
1階は、基本的にはアトリエだけですか。
長野
アトリエと、ぼくが使う暗室があります。
1階は完全に仕事場で、仕事してるとき以外、
ここで過ごすことはほとんどないですね。
ふだんは2階と3階にいます。
――
このお家は、どなたかに設計していただいたんですか。
長野
はい、東亮さんという建築家のかたにお願いしました。
大竹伸朗さんのアトリエとかを建ててる人です。
――
おお、そうなんですか。
長野
知り合いのかたの家を東さんが設計していて、
それがすごくよかったので、お願いしました。
――
シンプルでいいです。
長野
そう、なんか、飾らないっていうか、
あんまりスタイリッシュじゃないというか。
――
たしかに。スタイリッシュすぎない。
なんかこう、余白がありますよね。
長野
あ、そうです、そうです。
なんか未完成な感じ。
おいおい、いろいろ変えていける。
絶妙な“未完成感”。天井もあえて張っていません。
――
さっきの吊り棚みたいに、自分で足したり。
長野
そうそう。
あんまりバチッと完成させないで、
まだこれからさわりたくなるくらいのところで、
「ここで止めてください」みたいな、そういう感じです。
――
オーダーとして、そういうふうに伝えたわけですね。
長野
そうです。
なんかちょっと不完全っていうか、
まだ途中な感じであってほしい。
もちろん、ちゃんとした上で、なんですけど。
――
はい、わかります。
階段にも本が積んであったりして、
「さて、これからどうしようかな」という感じを、
残しておきたい人なのかもしれないですね、長野さんは。
長野
ああ、たしかに。そうかもしれない。
じゃあ、2階に行ってみましょうか。

「また、つくりたい」と思いたい

長野
2階ははじめ、台所とリビングの境が
まったくなかったんです。
でもなんか落ち着かなくて、
やっぱりちゃんと区切りをつくろう、
ということになって、あとから壁をつけました。
そういうところも、建築時にはあんまり考えてなくて、
住んでみて気づいたんです。
――
そこからまた変えていけばいいやと。
長野
リビングは、ソファとテーブルのあいだに、
ちょっとした間(ま)があるのが特徴でしょうか。
空間をつくって、ダイニングとの区切りをつけています。
――
あ、1階の吊り棚みたいな、宙に浮いた棚がまたあります。
時計をこんなふうに置くなんて、しゃれてるなぁ。
長野
あ、これ? この棚は自作なんですよ。
なぜこれをつけたかというと、
もともとここには洗濯機があったんです。
だからこの棚のうしろは、洗濯機用の蛇口が
壁にむき出しになっているんです。
――
ああ、そうなんですか!
長野
はじめはスピーカーの上に
ものを置いて隠してたんですけど、
どうせなら棚でもつくっちゃおうと思って。
――
そういう経緯だったんですね。
棚を浮かせるのが趣味なのかと思いました(笑)
時計も、なんだかかわいいです。
長野
イタリアのソラリー(Solari)ので、
だいたい70年、80年代くらいのものです。
いわゆるパタパタ時計。
――
パタパタ時計、なつかしいです。
長野
これ、なかなかね、いいのないですよね、いま。
復刻してほしいんですけど。
で、こっちが台所です。
――
真ん中にあるのは、テーブルですか?
長野
あ、これは、食器棚を2つ置いて、
サイドテーブル(アイランド)的に使ってるんです。
――
そうか、食器棚をちょっとずらしてるんですね。
長野
もともと、長さがちょっとちがうんですよ。
どうせちがうんだったらって、こうやってずらした。
立体的に見せるっていうのもあるし、
こうすることで、椅子を置いたり、
ちょっとしたスペースもできました。
――
全体でひとつの家具に見えます。
長野
たまたまです。
これはね、妻が考えたの。
――
キッチンのつくりかたには、何かお考えがあったんですか。
長野
うちは基本、ぜんぶ置き家具なんですよ。
台所も、システムキッチン以外は置き家具です。
家を新築すると、造り付けにしがちですけど、
それはしていないんです。
そうすると、あとで動かしたりとかもできないし。
こういう未完成な感じにすごく執着してて、
そう、未完成なアトリエみたいな感じにしたかったんです。
――
しっかりつくり込みたい欲望はない?
長野
ありますよ。
性格的に面(つら)をきっちり合わせたいほうなので。
でも、いずれ絶対に気持ちが変わるし、
「また、つくりたい」ってなるから。
で、ぼくは「また、つくりたい」って思いたいから。
――
ああ、ああ、思いたい。
長野
そう、つくりたい。
なんでも、ほしいなと思ってるときとか、
何にしようかって思ってるときが
いちばんたのしいじゃないですか。
すぐ手に入っちゃったりすると、つまらない。
だから、なるべく家の中のことも、そうさせたいんです。
――
なるほどー。
長野
取材とかでいろんなお宅を拝見すると、
すっごいできあがってる家とか、
シンプルでものがまったくない家とかたくさんあるけど、
あんまりそっちにはワクワクしなくて、
整理整頓はされてるんだけど、適度に散らかってたり、
もの自体はちゃんとそこに存在する感じが好きなんです。
――
ものが多いけど、きたなくはない感じ。
長野
そうですね。
ものがぜんぶ、そこに置いてある理由がある。

「すこしずつ」がたのしい

長野
うちはそんなに広い家じゃないんで、
台所のアイランドみたいに、すこしずらしたり、
さっきのソファとリビングの間(ま)もそうなんですけど、
工夫していかないと空間が生まれないんですよ。
きれいに揃えちゃうと、そういうことはできない。
――
とにかく、余白を残しておくわけですね。
長野
1階から上がってきたところ、おおきな窓のところには、
ほんとうはベランダをつけたいんです。
1階はアトリエだから、
2階の窓から外に出られるようにして、
1階と2階、入口を別にしたいなと思っています。
長野
それから、本とか掃除機なんかを入れる用に、
前からも後ろからも、ものが取りだせる、
両開きの棚を置きたいんです。
‥‥っていうふうに、生活しながら、
いろいろ考えるじゃないですか。
すると、たのしいじゃないですか。
――
ええ、すごくたのしそう。
長野
だから、あんまりいっぺんにやらずに、
すこしずつ、っていうふうにしているんです。
――
なんか、空間や置いてあるものもすてきですが、
くらしに対するお考え自体が、すごくいいですよね。
ありがとうございました。
では、そんな長野さんに、
とっておきの「いいもの」をご紹介いただきましょう。

(次回、長野さんの「いいものリレー」がはじまります)